歴史を超えてつながる

チャプレン 司祭 八 木 正 言

 1985年3月、イラン・イラク戦争の際、サダム・フセインが「今から40時間後にイランの上空を飛ぶすべての飛行機を打ち落とす」と宣言したことがありました。戦争勃発の前にとイランにいた日本人は急いで出国を試みます。しかしどの飛行機も満席。他国は自国民救出のために特別機を飛ばしますが、日本政府は決定が遅れて救援機を出せずじまい、パニック状態に陥る人もいたそうです。
 そこに1機の飛行機が到着。取り残された日本人を載せて日本へと飛び立ちました。
 この飛行機はトルコ航空の飛行機。なぜトルコ航空が日本人を救出してくれたのか、政府もマスコミも事態を把握できませんでしたが…。
 時を遡ること120年前、オスマン帝国(現トルコ)から日本に派遣された特派使節が無事に任務を終え、巡洋艦エルトゥールル号で帰国の途につきましたが、その日は生憎の悪天候エルトゥールル号岩礁に乗り上げて沈没します。その時、命の危険も顧みず、船員たちの救出に向かったのは日本人でした。救出できたのは乗組員の1割ほどでしたがトルコの人々は日本に深く感謝したといいます。当時の駐日トルコ大使は語ります。「エルトゥールル号が遭難したときの日本人の献身的な救助活動を今もトルコ人は忘れていません。日本の皆さんは忘れてしまったかも知れませんが、トルコでは子どもたちでさえエルトゥールル号の出来事を知っています。だからトルコ航空が飛んだのです。」
 日本人の「時」の概念は基本的に「過ぎ去るもの、消えていくもの」です。しかし、過去の人間がしたこと―いいことも悪いことも―と自分がつながっていることを意識できれば、もう少し私たちは自己中心性という狭い世界から解放されるように思うのですが如何でしょうか。