【6月の言葉】緑したたる

 万緑の中や吾子の歯生えそむる   草田男

 この季節になると、いつもこの句が思い浮かびます。「万緑」「吾子」「歯」という言葉ひとつひとつに若いひとりの父親の感動している姿がありました。若かった時代―それは誰もが、希望や喜びを自分の籠いっぱいにあふれさせながら、一方では言い知れぬ漠然とした不安を胸のポケットにしまいこんでいきていた自分がありました。これは緑したたるまっただ中に、自分の命を分けた我が子に白い歯が生えてきたという感動の讃歌であります。ずいぶんこのようなものから久しく遠ざかってしまっていました。私を感動させてくれた子も、いつしか親になり、私と同じ感動を覚えたか・・・。

 今年は万緑の中で、私はこの感動を蘇えらせています。幼稚園で毎日遊ぶ子どもたちは、日に日に成長しています。昨日と今日は確実に違います。表情もお話も違ってきています。それは、まさしく、「吾子の歯生えそむる」ようなものです。毎朝その感動を味わっております。今のお父さんやお母さんも同じ季節を過しておられるのではないでしょうか。

 子どもたちに親から与えるものと、子どもたちから与えられるもののバランスについて考えたことがあります。でも結局は後者が自然により近いもの―言いかえれば神様の差配―だけにかないません。本当に子どもたちは神の子なのです。しばらくは、このような感覚を楽しむことをお許し下さい。それにしてもしたたるほどの緑と子どもたちはよく似合う。

 万緑に子らの声ある神の庭   司