【8・9月の言葉】 夏―少年の日

 夏が終わろうとしています。この原稿を書いていると、突然蝉が鳴き始めました。一斉に鳴き始めました。蝉しぐれです。

 ところで、今年の夏は、蝉がことのほか鳴かなかったでしょうか。私だけの思いでしょうか。女房に聞いてみたりしたのですが、特に答えは得られませんでした。私だけがとくにそう感じたのかとも思っております。ただ今年の夏は、もうひとつ自分のなかにいつもの夏よりも異なった感覚が芽生えているのを感じております。それは、無性に「少年の日の夏」を思い出すことです。野球少年の野球三昧の夏。プールなど完備していない時代、友達と一里(?)以上の道のりを歩いて川で泳いだこと。川に出るところのスイカ畑で、ちょいと失敬・・・。また釣りにもよく行ったなあ・・・。そして、とくに思い出すのは、そこにあったあの時の少年たちの瞳です。好奇心に道、いつも遠くを見ていた瞳です。

 この少年のような目が蘇ったと感じたのです。いままで興味がわかなかったものに興味がわくようになったり、新しい発見に喜んだりしています。もしかしたら、これ「若返り」かも・・・。

 幼稚園の子供たちの瞳は澄んで、こんなにも輝いています。四月に彼ら彼女らに逢ったとき、それは感動的でした。私のこの夏は、たしかに、その五十二の瞳に触発されたようです。昔のことばかり思い出すのは、それは歳をとったせいだよと言われそうです。しかし、明るく生きよう、楽しく生きよう、と瞳を輝かし、背筋を伸ばさしてくれたのは、子供たちの瞳であったと思っております。

 蝉しぐれのなか、思いはあの少年の日に帰っております。