「心の中に大切にしまっておきたい出来事」

 新学期になるとお昼を食べるグループを新しく作り直します。小さい子から大きい子まで一緒に生活するこの幼稚園では、グループも縦割り。グループ単位で活動することがあるので、子どもたちが覚えやすく親しみを持ちやすいように、自分たちのグループの名前をそれぞれ相談して決め、メンバーの名とともに紙に書いて掲示することにしています。
 今学期もいつものように、グループごとに集まってグループの名前を決めたり、どのように名前を書くか考えたりしていました。1月に入園したばかりの年少児Aちゃんは、始めての集団生活ということや、まだみんなと同じ活動をすることが難しいこともあり、話し合いに加われず、私と積み木などして遊んでいました。すると、年長のBちゃんが自分のペンを全部持ってきて、こう言いました。「Aちゃん、どの色がいい?」 Aちゃんが色を一つ選ぶと、「わかった。この色がいいのね。」と言って、自分のグループに戻っていきました。
  “?”と思いましたが、グループ名とメンバー名を書いた紙が貼り出されたとき、その理由が分かりました。Aちゃんの名前をBちゃんが書いてくれていたのです。もちろんAちゃんが選んだその色で。それだけではなく、おそらく字が読めないであろうAちゃんのために、名前の後ろにうさぎのマークまでつけてくれていました。これならAちゃんでも自分がこのグループのメンバーだとすぐにわかります。
 “私たちは一生懸命やっているのに、Aちゃんは先生と遊んでいるなんてずるい”と考えている子がいるかしらなんてちょっとでも思っていた私は、自分を恥じました。自分とは異なるところがある人をそれで良しとして自然に受け入れ、自分で助けになることがあるのかをまず考える。 あまりに感動したので、Bちゃんのお母さんにもご報告しましたら、「この幼稚園の環境が娘をそのように成長させてくれたのだと思います。」というなんともご謙遜で幼稚園への思いやりに溢れたお言葉。なるほど、こういったご家庭、こういった親の姿勢や後姿がBちゃんのやさしさを育んだのだなあとここでまた感動してしまったのでした。