忘己利他 

園長 古川陽子

 この夏休みを利用して、いくつかの研修に参加してきました。そんな研修の中で、講師の先生がある紙芝居を読んでくださいました。
 『星の金貨』というお話です。少女が次々と自分の持っているものを持っていない人に分け与えていき、最後は着ている下着までも分け与えてしまうという、とても美しい、心に残るお話でした。
 先日テレビを見ていたら、瀬戸内寂聴さんが、天台宗の大切な教えに「忘己利他」があるとおっしゃっていました。「自分のことは後回しにして他の人の幸せを考える」という意味だそうです。「あぁ、この前の紙芝居と同じだ」と思いました。そしてこれは、教育にたずさわる人、もっと言えば誰かの成長のお手伝いをしている人たち皆の根底に流れるべきものだと感じました。忘己利他の精神は、決して自分を不幸にして他者を幸せにすべきということではありません。幸せとは何か、私利私欲を満たすことではなく、他者の幸せを自分の幸せと感じられることが本当の幸せということなのでしょう。子どもたちにとって何が幸せなのかを一番に思い、思うだけでなく実行に移せる保育者でありたいと強く思った夏でした。
 マザーテレサも同じようなお話をされています。わずかなお米を貧しく食べ物のない家庭に持っていったら、その母親はすぐにそのお米を半分にしてお隣の家に分け与えたという話です。私たちは震災以降、この恵みをとても多くの方からいただいたのではないでしょうか。そのやさしさに救われたものとして、私たちは「忘己利他」がどれほど強く愛に溢れているものか実感できていると思うのです。